オススメ図書(2025年3月)
うたうおばけ
【くどうれいん//著 講談社文庫 2023年】
「シーンを積み重ねることで、世間や他人から求められる大きな物語に吞み込まれずに、自分の人生の手綱を自分で持ち続けることができるような気がしています」
あとがきに綴られたこの文章に、私はハッとさせられました。
友だち、家族、先輩後輩、同僚、行きつけのお店の店員、タクシーの運転手、通りがかりの小学生や、たまたま隣に座っただけの見知らぬ人。人生には、人とのつながりや出会いの数だけシーンがあって、その時々で、そこにしかない“自分と誰かの物語”が生まれている。筆者が綴るあたたかくてやさしくてちょっとスパイスの効いたそんな物語たちを読んでいると、私の人生にもたくさんのシーンがあって、その一つ一つが今の私を形作っているのだと思えてきます。
「気がつかないだけで、わざわざ額に入れて飾ろうとしないだけで、どんな人の周りにもたくさんのシーンはある」
人生の中のたくさんの小さな物語を大切にしたくなる、お守りのような一冊です。